先日、兵庫県の山田錦の価格について値上げの話が全農兵庫から私どもに来ました。1俵(60kg)につき650円上げたいそうです。聞いていて、目が点になりました。今までの価格が特上26,790円としてたったの2%強!!。これで、よく、よく、農協傘下の山田錦農家たちを納得させる自信があるものです。
マスコミ報道でもあるように、諸物価高騰の今、農家の諸経費も相当上がっていると推測されます。これで良いんでしょうか? いいわけないですよね。聞けば、酒造組合と話し合って決めたそうです。「アホかいな」と思いましたね。酒造組合も酒造組合で、ただ「仕入れ価格を叩けば良い」というもんじゃないと思いますけどね。
これで、本当に山田錦農家の経営が維持できるのでしょうか? 獺祭は山田錦しか使いませんから、一般に酒蔵が思っているかもしれない「コメの値段は安ければ安いほど良い」のとは感覚が違います。なんで、自他共に許す兵庫山田錦の最大の購入者であり使用者である獺祭に聞きに来ないの?! 相談する相手が違うだろう? まあ、これまでの農業団体と酒造業者の平和なもたれあいをぶち壊してしまいますから、私とは相談したくないのかもしれませんが・・・。
ここで、山田錦農家の経営状況を考えてみましょう。一般的に農業に対して心情的サポーターの方が想像する農家の経営規模って、栽培面積3町歩(9000坪)程度だろうと思います。この程度だと、何千万円もするトラクターも持っていないだろうし、皆さんの想像する「コメ作りの篤農家」に見えるスケールの農家じゃないでしょうか?
それでその篤農家の山田錦の栽培から生まれる年間収入ってどのぐらいでしょう? 兵庫県の平均である反当り9俵の収穫が上がるとしましょう。農協の手数料や全農の利益の取り分も少なめに見積もって一俵2万円が農家に残ると仮定しましょう。30反×9俵×2万円は540万円ですね。これから肥料代や農機具の減価償却を引きます。
どれだけの収入が農家に残ると思います。皆さんの年収と比べてみてください。まともな人間だったらやっていけるはずないですよね。これが現実です。この人たちに私たちは、「コメ作りは日本の文化で、食糧安保のために頑張れ」と強制しているんです。強制してない?日本の社会や行政が強制していますよね。
こんな農家を傘下に持ち、彼らから集荷した山田錦を農家の代表として販売先と価格交渉と販売交渉を行い、栽培数量を決定して各傘下の農家にその栽培数量を守らせる実態を農協とその上部組織である全農は持っています。(米価維持のためには作りすぎは悪!!)(いくら山田錦の価格を低くしてもどうせパック酒には高すぎて使えないから買ってくれない酒蔵の意見を聞く)(結果として山田錦の販売数量は「絶対」増えない)(農家の手取りも絶対増えない)・・・・・なんでしょうね。
これで、山田錦農家のやる気が維持できるでしょうか? できるわけありません!! 気になるのは、これまで何度も見てきた農家の皆さんの達観したというかあきらめ顔。いつまでこんな顔を農家にさせておくんでしょう。すべてを農協と全農に押し付けるのは正しくないと思います。彼らは農水省の意をくんでやってきたわけですから。本質的には、この諦観に満ちた農家の顔は、今の農政が導いてきたもの、そしてこんな現状には目を向けず、農家は弱者だから手を差し伸べる存在だとピント外れの善意を押し付けてきた日本社会。
おかしいでしょ。これは、山田錦に限らず日本の農家に対して「やりがい搾取を受け入れる人の好い農家でありづけること」を押し付けているということではないでしょうか? 今回の兵庫山田錦の値上げ幅の決定はそんな日本農家へ私たちがやってきたことの象徴のような気がします。
!!農家の皆さん!!
今回の全農兵庫の価格決定は全国の山田錦の価格に決定的な影響力を持つと思います。横並びで価格決定せざるを得ないと思っておられる農家も多いと思います。勇気をもって、これ以上の値上げ価格をつけて獺祭に提示してください。もちろん、残念ながらこちらも商売ですから、提示された価格をそのまま飲むとは限りません。品質的にこの価格では納得できないと獺祭のほうから突っ返すところもあると思います。でもこの値上げ幅に拘泥する必要はありません。
獺祭は、何より山田錦農家が、山田錦を作ることにより、健全な利益を生み出し、次世代にもその経営を受け継がせられる農家であることを願っています。獺祭の海外輸出は金額で言えば日本酒全体の15%を占めます。つまり、私たちは本気ということです。海外に出ていこうとするとき、本当に良い酒でないと戦えません。良い酒を造ろうとする時、良い山田錦は必須なのです。