文責:広報 千原
120名を超す獺祭の造り手たち。
洗米課、発酵管理課などの分業が取られていますが、その全体をまとめているのが、製造部長や醸造責任者、副醸造責任者たちです。
今回、そんなリーダーたちは表に出ないところで一体どんな仕事をしているのか、旭酒造の二人目の副醸造責任者として活躍する野中副醸造責任者の一日を見せてもらいました。
野中 裕介(のなか ゆうすけ) |
副醸造責任者 |
1990年生まれ |
2015年入社~ |
発酵管理課(2年)→洗米→釜→上槽→麹室(2年)→発酵管理課→現職職 |
・好きな酒のつまみ:切れてるチーズ ・趣味:究極の血抜き(魚をさばくこと) ・今食べたいもの:カヌレ |
※親しみを込めて野中さんと呼ばせて頂きます。
野中さんの一日のスケジュールを大まかに分けると、毎日の朝礼後は主にこのような仕事があります。
・醪の操作を指示する
・利き酒
・来客・蔵見学対応
・面談
細かなメールのチェックや資料の作成などはこれらの合間に行っているとのこと。
では、早速一日の様子を追っていきたいと思います!
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8:40 【醪(もろみ)の操作①】
朝礼から検査室に戻ってきました。一日の仕事のスタートです。
まず、発酵中の醪の経過簿が一面に貼られている壁の前へ。
獺祭は仕込みのタンク一本ごとに、日々の醪の温度やアルコール度数などを計測しグラフ化した経過簿を作成しています。
この経過簿を見て醪の様子を判断し、次に行う作業を決めていきます。
例えば、発酵のスピードが速く温度が高くなりすぎているものはタンク外壁に冷却水を回し醪の温度を下げる、反対に温度が低いものはタンクの下にヒーターを入れて温める、など。
1本ごとに発酵管理課の責任者と数値を確認し、指示していきます。
野中「このタンクは水回して。15分、いや10分かな?」
千原「10分の冷却って変わるんですか?本当に醪に影響するのかな・・・(作業する担当者さんが大変すぎません?笑)」
野中「いや変わります!自分は気になることは細かく調整していきたいタイプです。」
この時に必要なのは野中さん曰く「経験」だそう。
野中さんは発酵管理課に合計2年半、計算上、およそ8,000本のもろみの経過を今までに見てきました。
すべてが山田錦の大吟醸を通年仕込み続けるわけですから、経験の蓄積は圧倒的です。
獺祭は「機械化されている、AIが判断してお酒造りをしている」と勘違いされがちですが、まさにこの仕事こそ、莫大な経験を積んだヒトが成せる技。
9:30 【利き酒】
会長、社長、西田製造部長、三浦醸造責任者、長尾副醸造責任者とともに、搾ったばかりのお酒をタンクごとに利き酒していきます。
味覚が敏感な朝に行うことになっている利き酒ですが、野中さんは朝はチョコレートなどの甘いものは、甘味が感じにくくなることから食べないようにしているのだとか。
この日は少し甘みが出ているお酒が少し気になった様子。
経過からも初期から米が良く溶けてグルコースが高いようですが、お酒全体として「重たい」というほどの味わいではないため、このお酒は合格となりました。
時には満足のいく出来ではないお酒の場合、そのランクとしての商品化はせず、例えば甘みが強すぎるものは甘みが少ないお酒に少しずつブレンドするなどしています。
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9:50
この後はしばらく昼まで細かい作業が続きます。
・各部署からの報告を見て改善
・来客予定を確認
・講習の資料作りなど準備 などなど・・・
そしてこれらの作業中、周りから次々と話しかけられます。
常に柔らかい雰囲気の野中さん、秘訣を尋ねると、
野中「部下が話しかけやすいように余裕を見せるのが大事であると本で読んだので、意識的にやってます。」と素敵な心構え。
旭酒造に入社したばかりの社員からも、「先輩、上司と年が近く、話しやすい環境」とよく聞きます。多忙な中でもイライラせず、話しかけやすい雰囲気でいることも、リーダーの仕事の一部なのかもしれません。
醪の経過簿のすぐ近くが野中さんの定位置です。
いつでも大好きなお酒を気にかけながら仕事をしています。
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13:45 【面談】
この日は新卒入社したメンバーの面談がありました。
製造部では定期的に上司との面談が予定されており、二人だけで話すone on oneの機会があります。
仕事で困っていることややりにくいことなどを聞いていきます。
責任のある立場でありつつも、しっかりと部下とコミュニケーションを取ることが旭酒造の風通しの良さにつながっています。
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15:00 【醪の操作②】
午後に再度醪の状態を確認し、操作を決めていきます。
発酵管理課の主任・もしくは主任見習いと一枚一枚経過簿を見ながら操作を決めていきます。
時には「このタンクの状態は何が気になる?」「なんで水を打つか分かる?」など、担当者に考えさせる場面も。
ここで純粋な疑問をぶつけてみました。
千原「管理職になるにつれて、現場の酒造り的な実務から遠ざかってしまいますが、それに関しては正直どう思っていますか?」
野中「酒造りをしたいと思って旭酒造に入社したんですけど、今やっているどの仕事も酒造りに関わることなので、特に仕事に選り好みはしないですね。」
千原「大学在学中にアポイントも取らずに突然履歴書を持って旭酒造に訪問してきたという噂を聞いたんですが、本当ですか?」
野中「はい、電話してもうまく繋いでもらえなくて、じゃあもう直接行ってしまおうと思って・・・・
その時は明日また来いと追い返されて、出直しました。」
野中「あと、後輩を育てたり、教えてあげるのは好きですね」
千原「野中さん、めちゃくちゃ面倒見がいいですよね。さっきからずっと話しかけられているし、私からも質問攻めにされているのに優しい・・・」
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15:30 【主任会議】
各部署の主任を集めて15分ほどのミーティングを開きます。
毎日、通常と変わったことがないか、残業があるかどうかを把握します。
この日は麴室で2名が通常通り勤務できないことになり、明日の別の部署からの応援を呼びかけます。
その他、講習の案内など連絡事項を共有して、製造部全体がよりスムーズに動けるように調整していきます。
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16:00 【詰め口計画の相談】
1階の事務所に降りてきた野中さん。
業務部・営業部と詰め口計画を立てていきます。
獺祭はタンクごとに一番良いタイミングでお酒を搾る(=完成させる)ため、数日前までいつお酒が完成するか分かりません。
ボトルに詰めて製品として出荷できる状態にする製品ラインのスケジュールと照らし合わせ、パズルのように予定を組み立てていきます。
この仕事は今まで先輩である長尾副醸造責任者が担当しており、野中さんひとりで担当するのはこの日が初めて。製造部相手には堂々とした野中さんもこの場ではちょっとタジタジ。
野中「長尾さんはもっとうまくやるんでしょうけど、僕はまだまだですね。時間がかかってしまうので、長尾さんのように的確にこなせるようになるのが当面の課題です。」
醸造責任者からの要望と営業からの要望にできる限りいい形で応える、板挟みになりそうな重要なタスクですね・・・・
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取材・来客対応
また別の日の午後は、テレビ局からの取材に対応いただきました。
カメラの回っている前でマイクを付けられ、かなり緊張している様子。
言葉に詰まりながらも、旭酒造について「獺祭の目標はより美味しいお酒を造ること。そのためには、手段を選ばず常識外れの量の手作業も行っています。」と力強く答えます。
社員が自分の言葉で会社のことを語ることができるのは、旭酒造の大きな強みですね。
ちなみに撮影にお越しのメディアさんは数年ぶりの来社。「会社の理念に関しては前回も同じようなことをお話しされていましたが、設備はどんどん増え、変わっていますね」と、驚いた様子です。
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最後に
約2日の短い密着取材でしたが、悩みながらもお酒に関わることを楽しんでいる背中をたくさん見ることができました。
密着取材を通して感じたのは、彼が【120人を超える製造部メンバーが毎日の作業を滞りなく行えるよう、イレギュラーが起きたときにもできるだけ現場が混乱しないよう、調節弁として立ち回っている】こと。
指示を出すのはもちろんですが、目立たない裏側から組織を支え、社員がよりよいパフォーマンスを発揮できるようにしてくれているのです。
そんな野中さんも今年31歳。一般的な会社ではまだまだ若手と言われる年齢です。
今後の抱負を聞くと、「獺祭に関わる人たちが幸せになれるような、酒、環境、繋がりを作っていきます。」とのこと。その言葉通りに、若いメンバーの多い旭酒造の製造部において、年齢も近く話しやすい醸造責任者・副醸造責任者は公私ともに頼りにされているようでした。
優しいリーダーたちのサポートのもと、旭酒造の全社員が安心して次々と挑戦ができそうです。