獺祭はこれから一年で1000回の獺祭の会を全国で開催します。300人を超すような東京や京都で開催しているような大きな会から居酒屋さんで10人ぐらいでやるようなこじんまりした会まで含めて、とにかく、年間1000回開催を目標に開催します。

目的は何か? もっともっと皆様に獺祭のことを知ってもらいたいからです。

ちょっと現在の獺祭の状況を報告いたしますと、5月に値上げした後、売上が苦戦しています。国内と海外を足すと前年チョイ越え位にはなっていますが、芳しくない。特に国内が。「売り上げは追いかけないが、売り上げという結果が悪いのは酒蔵に何か問題があるから」と言ってきた私からすれば頭を垂れて反省すべき状況です。

実は、今回の値上げは、将来を考えて山田錦の生産農家を始め獺祭に関係するすべての関係者が余裕のある取引体系にならなくてはいけない、という事から決断したものです。しかし、そのあたりの説明が自分勝手で不十分でした。ここ最近、酒造業界で資材価格の高騰から値上げが当たり前の風潮になっていて、「だからうちも」とそれに流されて説明不足になってしまったのですね。そりゃ、お客様からしたら引くのが当たり前ですね。

最初はそんなこともわかりませんでしたから、社内でミーティングというか原因探しをしました。会長特権で、自分の不明は棚に上げて、なぜこのタイミングで?なぜ値上げ後売り上げが落ちている?それを幹部はどう思っているのか?etc,etc、とまあこんな感じですね。皆、暗い顔をしていましたが、仕方ないですよね。お遊びでやってるんじゃありませんから。

この何回かの暗くて切ないミーティングの中から浮かび上がってきたのが、獺祭のことを私たちはお客様にわかってもらっていると勝手に自己満足しているけれど、お客様からすると毎日の身の回りに流れる情報の中で、獺祭も情報の大波の中にうずもれてしまっている、小さなモノになっている、のではなかろうか、という推測です。

それが正しいとするならもう一度、獺祭の思いを発信し伝えていく努力をしなければいけないはずです。それにはどうしたらいいんだ。それで、この1000回イベントの話になったのです。イベントを通して直接お客様に私たちの思いをお伝えしていこう。年1000回というと社長・会長とそして営業メンバーだけでは不可能で、「製造のスタッフに手分けして手伝ってもらうしかない」という結論に達しました。

という事で、それなら自分たちが直接お客さんに説明するとなると不安感もあるだろうし、その1000回イベントに指名されそう、または手を挙げてくれそうなメンバー、そんな彼ら製造スタッフを対象に、話してほしいことを説明しようと思いつきました。

西田君に「やる気のある製造メンバーを集めといて」「パワーポイントとか使わないし、聞いてる皆を感動させるためにやるんじゃなくて、皆に大切なことを再確認してもらうための説明だから、筆記用具とメモ帳だけは持って来てくれ」「自分が心に残ったことだけ記帳して、それでいいから」と頼みました。対象は2~30人のつもりでいたのですが、当日12階の会議室に行ってみたら、なんと100人をはるかに超すメンバーで溢れ返っていました。西田君に聞くと、「自分も」「自分も」という事でこの人数になりました、と笑っていました。ちょっとびっくりして、社内のいつも顔を合わすメンバーなのに変に力が入ってしまい、緊張して話した30分でした。

話の内容は、まず現在の売り上げ状況があまり良くないこと。それには会長・社長はじめ幹部の判断間違いがあったこと。そのうえで、皆の力を貸してほしいこと。と、いう事でイベントを手伝ってほしい事。そこで話すことは、獺祭が大事にしてきたことを話してくれたらいい。変なセールストークは要らない。

つまり、「少しでも美味しい獺祭をお客様に飲んでもらうために獺祭のすべての努力がある」「美味しい獺祭を造るためには優れた原料米が不可欠で、そのために獺祭は山田錦の栽培農家を常に大事にしてきた」「ただ売れさえすればいいと思ってないから、コンビニやスーパーなどのいわゆる現代の勝ち組流通には売らなかった」「獺祭というブランドを大事にしてくれる、品質を大事にしてくれる、そんなお店とだけ付き合ってきた」「売れればいいという論理じゃなくて、しつこいけれど、お客様に少しでも美味しい獺祭を飲んでもらう事が私たちの目的だった」と、まあこんな話をしてほしいと伝えたのです。

翌日、早朝にニューヨークに向け山口の酒蔵を私は出発したのですが、羽田の搭乗待合室で大事なことを話していないことに気が付きました。それは最も大事なことでした。「何より優先して話してほしいのは、自信をもって、話してほしいのは、自分たちが各自の製造現場で何を思い、何を目標とし、何をしているか?をそのまま話してほしい」「何よりそれが重要」「君たちが今やっている酒造りは、世の中から見た時、酒造業界の一般の作業現場から見た時、自信を持って話せることをやっている」「やっていることを話すだけでお客様に大きな感動を与えます」「獺祭がやっていることはそういう事なのです」「そこまで君たちはやっているんです」という事を話していなかったことに気が付きました。

待合室から携帯電話で山根君を呼び出して「明日の朝礼で会長の伝言として伝えてほしい」と頼みました。まあしかし、こういう熱に溢れた社員に囲まれて獺祭を造っているというのは本当に幸せなことです。いくら感謝してもしきれない。

という事で1000回の獺祭の会を開催しますから、「ぜひうちで」というお店があれば声をかけてください。全国行きます。