獺祭 登龍門DASSAI Artisanal Inception
担当ペア関口慎之介・山本大介
― まず、2人が考える「獺祭らしさ」とは…?
関口:CRAFT獺祭に限らず、通常の獺祭もタンク毎に味が違います。
常に進化し続ける・常に一定でない味わいがまさに獺祭らしさではないでしょうか。
山本:酒造りの工程にはマニュアルが存在しますが、そのマニュアルが必ずしも正解とは考えていません。
美味しい酒のためになるのであればどんなことにでもチャレンジする「挑戦する酒」、それこそが獺祭らしさと思います。
― 挑戦と進化を続けるのが“獺祭らしさ”というペア。そんな2人が語る今回の造りのポイントは…?
POINT1 原料の選定
関口:1つ目のポイントは「原料の選定」です。お米の産地やその年の出来によって米自体の特性がそれぞれあるので、今までの米ごとの解析を参考にしながら、比較的米の溶け方(糖化)が良く、安定した発酵が望める、岡山県・2021年度産のお米を選びました。
酵母は糖を分解することで動きが活発になりアルコールを発生させます。そのため、アルコールと味わいのバランスをとるためには、米がしっかりと溶けることも重要なポイントと考えています。
― へえ~!岡山県産の山田錦といえば、 「最高を超える山田錦プロジェクト2021」でグランプリを獲得したのも同県のものでしたね。CRAFT獺祭では使用する米から担当者が選んでいるとは知りませんでした。
POINT2 酒母の温度
山本:2つ目のポイントは、「酒母」です。酒母はその名の通り、「酒の母」=「酒の土台」となるもので、蒸米・麹・水を合わせて造られます。
通常の酒母の仕込みは、酒母室と呼ばれる室温4~5℃の環境下で行われますが、今回は室温1℃という、通常より室温の低い部屋で行いました。
― 何故、あえて通常の酒造りの環境と異なる方法を選んだのでしょうか?
関口:その昔、雑菌の繁殖を抑えるために、酒母の工程は酒蔵の一番寒いところで行うのが良しとされていました。
今は技術面の発達から、衛生環境の優れた蔵での造りが可能となり、四季醸造も可能となりましたが、そんな中で「原点」に戻った造りを再現してみようということで今回は取り組みました。
― 進化を続ける中で、「原点回帰」ということですね。実際に行ってみてどうでしたか?
山本:室温は低くとも、酒母の温度まで下がってしまうと「酵母」の動きもゆっくりとなり、十分に育たないという状態になってしまいます。酵母が活発になる20℃前後の品温を保つために、1日に20回以上温度の確認をしたこともありました。
温度が下がっていたので、電気アンカをタンクの下に入れ、タンクを覆うように囲い調節を試みましたが、今度は温度が一気に上昇してしまうという失敗もありました。
こうして約8日間、品温と加水量に特に気を配り、お酒の土台を完成させました。
関口・山本:通常とは異なる環境下での仕込みは2人で造る酒だからこそ挑戦出来たと思いますし、この選択を通して改めて、生き物(微生物)を扱う難しさ、マニュアル通りでは完成しない酒造りの難しさを実感しました…(苦笑)
― 電気アンカで温めて、タンクを囲って…
なんだかひな鳥をあたためる親鳥みたいですね。
この中で酒が育っていると思うとなぜか愛おしささえ感じます。(笑)
― そして約3ケ月間をかけて完成したCRAFT獺祭。出来はいかがでしょうか?
関口:自身は2回目の挑戦で、最後のCRAFT獺祭と思い取り組みました。お酒の出来としては上出来だと思っています!ただ、酒単体となると「辛口」に感じる部分も有るなと思いますので、食事と一緒にお楽しみいただく事をお勧めします。
山本:当初の目標通り、「磨き三割九分」の綺麗な後味と香り高い酒質を表現しつつ、バランスの取れた軽やかな味わいに仕上げることが出来ました。味の濃い目な和食と合わせてどうぞ!